
おぼえてらっしゃる読者も、
いるかもしれませんが(いてほしい!)、
いまから5年前の2020年に、
個性ゆたかな高校生たちに話を聞きました。
群馬県立尾瀬高等学校自然環境科、
3年生のクラスで学んでいた
「昆虫博士と、魚釣り名人と、鷹匠」です。
取材の終わりに、
「じゃあ、次は5年後に会いましょう」
と言って、ぼくらは別れました。
5年後の今年、その約束を果たすべく、
久しぶりに会ってきました。
再集合してくれたのは、
虫博士の谷島昂さんと鷹匠の小川涼輔さん。
そして、当時の担任だった星野亨先生。
かつての高校生はぐっとたくましく、
先生は、相変わらず愛されキャラでした。
全8回の5年後インタビュー、
お楽しみください。担当はほぼ日奥野です。
- ──
- 鷹匠・小川くんはいま、
どのようなことをやってるんですか。
- 小川
- ぼくは、前橋で会社に勤めています。
父親が社長の家族の会社で、
半分がハトなどの害鳥排除の仕事で、
もう半分が、木の伐採ですね。 - 高校を出たころは、鷹のショーとか、
鳥とのふれあい体験みたいな仕事など
いろいろとやってたんですけど。
- ──
- 鷹のショー。
- 小川
- 群馬の「上州沼田真田まつり」で鷹を飛ばして、
昔の鷹匠のようすを再現したり、
子どもたちに
猛禽類とふれあってもらうイベントを
やってたんですけど、
コロナ禍のときに激減しちゃって。
- ──
- ああ、そうだったんですか。
- 小川
- そのぶん、
木の伐採の仕事がすごい増えましたね。 - 自分としては、また本格的に、
鳥のイベントをやっていきたいので、
動物取扱業という資格を取る予定です。
小川さん
- ──
- お仕事をしながら、
これからも鳥と関わっていこう‥‥と。 - 小川くんの家では、
もともと鳥のことをやってたんですか。
- 小川
- いえ、ぜんぜん関係ないんです。
母親が音楽教室の先生で、
父親がデイサービスの仕事だったんです。 - ぼくが鷹匠をやりはじめて、
じゃあ害鳥駆除の仕事をやろうとなって、
父親も資格を取って、一緒にやってます。
- ──
- 息子さんの影響で、
お父さんが、新たに鳥の仕事をはじめた。
- 小川
- ぼくが高校のころに資格を取ってくれて。
- ──
- つまり、見据えていたわけですかね?
将来は息子と鳥関係の会社やるぞ‥‥と。
- 小川
- 高校生のときから、
市役所とかから依頼が来ていたんですよ。 - テレビとか新聞を見て、
「鷹匠の人だ」と知ってくれる人がいて。
- ──
- わはは、もう依頼が来てたんだ(笑)。
高校生だけど鷹匠の小川くんのとこに。 - いわゆる鳥獣保護の法律の決まりで
駆除には資格がいるし、
生活環境や農林水産業への被害防止など
特定の条件下で
ゆるされている行為なわけですよね。
- 小川
- そうですね。
- 群馬には自動車などの工場が多くて、
ハトがよく巣をつくってしまうんですよ。
そういうところで捕獲業務をしています。
ハトは帰巣本能が強くて、
追い払っても戻ってきちゃうんですよ。
カラスだと鷹を飛ばして追い払います。
カラスは頭がいいから、
ここは危険な場所なんだなと学習して、
違う場所へ移動してくれるんです。
- ──
- 鷹で追い払うのは、
人間が棒をふりまわすとかってよりも
効果あるんですか。
- 小川
- カラスを鷹で追い払うと、
もう懲り懲りだって来なくなるんです。 - 目に見えて少なくなりますし、
定期的にやれば、帰って来なくなります。
- ──
- 鷹匠の経験が、
いまでもガッツリ活きているんですね。
- 小川
- いまは5羽くらい飼ってます。
- ──
- 鷹が5羽も! その子たちも、
定期的に飛ばしたりしているんですか。
- 小川
- ですね。羽が生え変わる時期以外は、
調教して飛ばしています。 - いちど、ちょっと危機があったんです。
伐採の仕事が多くなりすぎて、
鷹の仕事ができない時期があって‥‥。
だったら伐採の仕事だけで
やっていけばいいんじゃないの、って。
だから鷹の仕事を続けていくためには、
伐採は少し減らして、
ぼくも動物取扱業の資格を取ろう、と。
- ──
- なるほど。
- 星野
- 鷹を定期的に飛ばさなきゃいけない、
というのは、
つまり犬のお散歩みたいなこと?
- 小川
- やっぱり飛ばしたほうがいいですね。
ストレス解消にもなりますし。
- 星野
- 大変だなあ。
好きじゃなきゃできない仕事ですね。
- 小川
- 実際に飛ばせるのは、
ワンシーズンで3羽か4羽なんです。
全員は飛ばせない。
鷹の羽の生え変わらない冬が
シーズンなんですけど、
一羽一羽、調教に時間がかかるし、
他の仕事もしながら、なので。
- ──
- ふたりとも
高校のときにやっていたことの知識を
実地で活かしているのがすごいなあ。
- 小川
- 自然環境科で習ったことや、
自分で調べて発表したことのなかに、
害鳥のこと、ハトの罠のこと、
使える知識が本当にあったんです。 - だから、いま、すごく助かってます。
- ──
- 尾瀬高校の自然環境科には、
そういう生徒さんが多いんでしょうか?
- 星野
- やっぱり自然を相手にしているので、
学校で学んだことが
日常生活の中に出てくる、役に立つ、
ということはあるかもしれないです。 - ただ、英語でも数学でもじつは同じで、
どんな勉強も好きでやっていれば、
その後の人生でも、
どこかでつながってくると思うんです。
- ──
- そうか。
好きでやってるというのが重要なんだ。 - 自然環境科の生徒さんは、
自然が好きで、
わざわざ
この高校を選んでいるわけですもんね。
- 谷島
- ぼくらのクラスは30人くらいいたけど、
いまでも自然に関わりがあるのは、
5人以下なんです。
ほとんどの人は自然そのものとは
そんな関わりのない生活をしてるけど、
でも、涼輔が鳥の仕事をしてるとか、
ぼくが虫を守ってると言ったら、
興味を示してくれるし、
その意味を、理解してくれるんですよ。 - 自然環境科での3年間の学びが
あったからこそ、
持てている視点かなと思います。
- ──
- 素晴らしいですね。
- 小川
- なかなかいいコメントするじゃん。
- 谷島
- だろ?
木の伐採現場ではたらく小川さん
(つづきます)
2025-12-19-FRI
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5年前、 2020年のインタビューはこちら。
