おぼえてらっしゃる読者も、
いるかもしれませんが(いてほしい!)、
いまから5年前の2020年に、
個性ゆたかな高校生たちに話を聞きました。
群馬県立尾瀬高等学校自然環境科、
3年生のクラスで学んでいた
「昆虫博士と、魚釣り名人と、鷹匠」です。
取材の終わりに、
「じゃあ、次は5年後に会いましょう」
と言って、ぼくらは別れました。
5年後の今年、その約束を果たすべく、
久しぶりに会ってきました。
再集合してくれたのは、
虫博士の谷島昂さんと鷹匠の小川涼輔さん。
そして、当時の担任だった星野亨先生。
かつての高校生はぐっとたくましく、
先生は、相変わらず愛されキャラでした。
全8回の5年後インタビュー、
お楽しみください。担当はほぼ日奥野です。

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第3回 飛行機に乗り遅れた日

──
ふたりが会うのは久しぶりなんですか?
谷島
俺、話したいことがあるんだけど。
小川
裁判したいんですよ、今日は。
──
何の裁判?
谷島
俺たち、ちょくちょく会ってるんです。
俺が関東に来たら、山行こうぜとか、
電話もするし、
まあ、仲良しではあるんですけど‥‥
去年、彼が釣りにハマってて、
ぼくはぼくで、南西諸島の自然環境を
ちゃんと見ておきたくて、
ふたりで沖縄旅行へ行ったんですけど。
──
おお。青春ふたり旅。いいね。
ぼくもやった覚えがある。
谷島
琉球諸島には特異的な生態系があって、
日本の自然史を理解するうえで、
絶対に欠かせないところなんですね。
ふたりで行ったほうが
レンタカー代も半分に節約できるし、
一緒に行こうぜって。
向こうでは虫を一緒に捕ってくれたり、
夜はイカのお刺身を食べたり、
そこまでは、まあ、よかったんですよ。

──
そこまでは。
谷島
最終日、そろそろ帰る時間になって、
俺が運転して空港に向かっていたときに、
涼輔が空を指さして、
「俺らの飛行機アレじゃないの?」って。
──
つまり‥‥空港に車で向かってるときに
自分たちの乗るはずの飛行機が
東京へ向かって飛んで行くのが見えたと。
小川
そもそも俺は、
早めに空港へ行こうと言ってたんですよ。
でも、彼はギリギリまで虫捕りをしたい。
高いお金払って来てるから、
まあ、飛行機に間に合うならいいよって。
自分の虫取りのために
ギリギリまでいると決めたわけですから、
時間の管理は彼がすべきじゃないですか。
谷島
いや、ふつうアプリとか見て、
自分の便の時間くらいは確認するでしょ。
小川
いやいやいや、
それ、おまえの便でもあるからな!?
これ、どっちが悪いんですかね?

──
星野裁判長。
星野
あはは‥‥まあ、飛行機の時刻は、
旅ではいちばん気にするところだけどね。
うーん、さすがだよね。
──
先生、判決になっていませんが?
小川
建物も山も何も遮るものがない場所で
空港が見えるんですけど、
夕焼け空にPeachのピンクの機体が‥‥
飛んでいったな。
谷島
煌々と光ってた。
──
美しい思い出みたいに言ってる(笑)。
谷島
前の日まで、すごい楽しかったんです。
でもその日の夜、延泊の宿で落胆して。
最悪ですよ。
往復5万円のはずが片道5万になった。
小川
貧乏旅だから、
ごはんもカップラーメンで節約したり、
そこまでしてたのに。
ぜんぶが「無」になったね。
谷島
むしろ赤字。
星野
でも、お金はなんとかなったんだね?
──
先生が心配してる(笑)。
小川
はい、でもふたりともヤバかったです。
「帰りの金どうする?」みたいな。
谷島
飲み屋の求人広告が目に入ったりして。
──
いざとなったら稼いで帰ろうか、と。
ちなみに、成果はどうだったんですか。
谷島
水生昆虫など、
とくに減少していると感じました。
様々な環境を見て、
新たな視点も得られたので、
そういった意味では有益な旅だったんですが。
彼も、すごい楽しんでいたし。
小川
めずらしい猛禽類もいっぱい見たしね。
谷島
飛び跳ねて車から出て行ったりしてた。
──
そんなにうれしかったんだ。
小川
ぜんぶ、帰りで「無」になりました。
谷島
でも、すごく楽しかったよ。
小川
マジ楽しかったよな。
谷島
すごい楽しかった。
小川
最後さえなかったら完璧なんですよ。
谷島
ヤシガニにも会ったし。
──
おお、地獄のような色のカニですよね。
アダンの実を食べるという。
小川
夜中に彼が運転してて急ブレーキかけて
「涼輔、ヤシガニがいるぞ!」って。
見たことなかったんで、超興奮しました。
谷島
道路の真ん中で、
真紫のでっかいのがうごめいてたんです。
小川
で「行くぞ!」って言って。
谷島
飛び出して行ったら、
予想外にヤシガニが機敏な動きをしてて。
ノソノソした感じを想像してたんですが、
カシャカシャカシャカシャって、
でっかいクモみたいな感じで、
ぼくらのテンションも爆下がりしました。
小川
ちょっと触れなかったね。コワくて。
谷島
寿命も50年くらいあるし。
──
えっ、そんなに生きるんだ。
谷島
でも、本当に楽しかったんです。
琉球諸島の特異的な生き物が見れたし。
──
それ、いつごろ行ったんですか。
小川
去年の3月。
谷島
あれ、もしかして、今日、
ちょうど飛行機乗り遅れた日じゃない?
小川
そうかも‥‥そうだ!
──
わはは、なんだこの展開は(笑)。
谷島
乗り遅れた1年後に取材されてる。
小川
まだ判決はくだってないけど。
谷島
10年は忘れないと思う。

(つづきます)

2025-12-20-SAT

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  • 5年前、 2020年のインタビューはこちら。